空飛ぶくじら

世界の美しさを封印

 

 

ピアスの穴を開けた。

運命を変えたい、とかそんな思いで。開けてしまったあとは、運命が変わったのかどうか判別することはできないけれど。そもそも運命なんて自分の思い込みで、誰にも何も決められていないだろうと。いったい誰に許しを請うのだろうと。そう思った日の夜の闇はいつもより暗く鮮明に見えた。

闇を飲み込んだ海は、夜空と一体となってうねりをあげる。昼間隠れていた星が一面に広がる。その星の数だけ、わたしの運命がある。まるで闇に穴をあけて光を通したような星の群れに、遠く先人が繋いだ秩序を同じようになぞってみる。無秩序から秩序を造形する。それがわたしたちの行動の基盤だ。

運命が変わる瞬間に、ちりりんと頭の奥で音が鳴ればいいのに。そう思ったことがある。しかし、選択の連続である日常生活では運命の変わり目は無限に乱立しており、きっと耳をふさがずにはいられない。目まぐるしく連続する選択はまるで無造作に散らかった星のようで、それはすなわちわたしの無限ある運命だった。

そう気づいたころには、わたしの耳に穴を空けてから4年ばかし経っていて、迷信でもなんでもいいからすがりつきたかったあの頃の自分を許せるような気がした。そうか。許しを請うていたのは未来の自分に対してだったのか。

 明日は花柄のピアスをつけていこう。